先日、X(旧Twitter)である投稿を見かけたことが、今回のテーマについて考えてみるきっかけになりました。
広告系のクリエイティブディレクターをされている三井雄一郎さんのポストなのですが、とても共感した内容だったので、まずご紹介させていただきます。
プロのデザイナーと付き合うのは面倒かといえば、めちゃくちゃ面倒です。最初は特に面倒で、やれ写真を読ませろ、商品背景を聞かせろ、これで社会をどうしたいのか教えろ、誰がどんな思いでやっているのかなどなど、質問が面倒くさすぎる。『黙って言われたことをやって』と思われますが、何がいいって、次から短時間で欲しいものを提案されるようになるし、気づいてなかった価値や魅力にも気づけるようになります。つまり、デザインやクリエイティブが提供するものは、デザインプラス『新しい情報』なんです。なので、最初の面倒くささをぜひ乗り越えるといいことあります。
https://x.com/mitsui_yoichiro/status/2059435564273922114?s=20
このポストを拝見して、「ああ、まさに自分もそうだな」と感じました。
私自身、特にプロジェクトの初期段階では根掘り葉掘り質問をするタイプです。そのため、「クライアントに面倒くさがられていないかな……」といつも少し心配しています。サービスの詳細はもちろんですが、時には経営の根幹に触れるような部分までお伺いすることもあるため、「そこまで関係あるのかな?」と思われているのではないかとドキドキすることもあります。
しかし、デザインというものは、事前に受け取れる情報量が多ければ多いほど、圧倒的に作りやすくなります。これは作り手側の都合だけではありません。情報が深まるからこそ、クライアントの皆様が「本当に自社のお客様へ届けたいメッセージ」を、しっかりと形にして伝えることができるようになるのです。
だからこそ、私は少し嫌がられるかもしれないと思いつつも、頑張って根掘り葉掘り聞くようにしていますし、デザイナーはそうあるべきだとも考えています。
クライアントのスタンスに合わせた対応
もちろん、すべての場合において同じ熱量で質問攻めにするわけではなく、ある程度はお客様のスタンスに合わせています。
「信頼しているので、全般お任せします」と深くコミットしてくださるお客様には、本当にしっかりとしたヒアリングを行います。一方で、そこまでの深い関わりを求めていらっしゃらないケースもあります。「デザイナーなら誰でもいいから、安く、早く、簡単に作ってほしい」というご要望です。
これについてはケースバイバイケースであり、どちらが良い・悪いという話ではありません。そうした割り切ったご依頼の場合には、こちらも要望をそのまま受け止め、「言われた通りのものをささっと作って納品する」という形で進めることも、結構普通にあります。クライアント自身が「欲しいもの」を完璧に把握されている場合は、それでも問題ないと考えているからです。
ただ、そうした進め方を見ていると、少し「もったいないな」と感じる瞬間もあります。
デザイナーを頻繁に変えることで生じる「見えないコスト」
「安く早く作ってもらえた」という目先の満足感はあっても、そうしたクライアントの中には、しょっちゅうデザイナーやマーケターを変えているケースが少なくありません。
「しばらくやってみたけれど効果が出なかったから」「値段があまり安くなかったから」という理由で次々と別の人に乗り換えてしまう。そうなると、デザインやWebサイト、LP(ランディングページ)全体の統一感が失われていってしまいます。
Webマーケティングの方向性もコロコロと変わってしまい、軸が定まらなくなってしまいます。もちろん、状況に合わせて柔軟に方向性を変えること自体は悪くありません。しかし、デザインというものは即効性が出るケースの方が少なく、どちらかといえば「じわじわと効果が効いてくるもの」です。
長い目で見れば、自社の経営やサービス、さらにはスタッフの方々のことまで網羅して理解してくれるデザイナーに伴走してもらった方が、クオリティが高く、統一感のある「きちんとしたブランディング」を構築していけます。
また、デザイナーを頻繁に変えると、毎回一から自社のビジネスを理解してもらう必要があり、そこに多くの時間と労力が割かれます。これもすべて「見えないコスト」として積み重なっていくため、やはり非常にもったいないなと感じてしまうのです。デザイナーに自社のことをしっかり理解しておいてもらうことは、ビジネスにおいてかなり大事なポイントです。
実際のWebサイト制作で「聞いていること」
参考までに、私が実際のWebサイト制作の際、どのようなことをヒアリングしているのか、シートの項目をリストアップしてみます。自分ではかなり細かいところまで聞いているつもりですが、具体的な項目は以下の通りです。
1. Webサイトの目的
集客のため、サービス内容を掲載するためなど、重要だと思う順に教えていただきます。これは基本中の基本ですね。
2. Webサイトで一番重要な情報
例えば、プロダクト(コレクション)の掲載なのか、サービス内容の紹介なのか。あるいは、自社のフィロソフィー(企業理念)を伝えたいのか。最も見せたいコアの部分を伺います。
3. Webサイト上で顧客に伝えたいメッセージ
サイトを訪れた方に、どのような想いやメッセージを発信したいかをお聞きします。これもフィロソフィーに近い部分です。
4. サイト上で最終的にターゲットに行動してもらいたいこと(CV:コンバージョン)
予約の申し込みなのか、お問い合わせなのか、メルマガ登録や資料ダウンロードなのか。具体的なゴールを設定します。
5. Webサイト上で今後達成したい未来の目標
「サービスの伝わりやすさを向上させたい」「ブランドへの理解を深めてもらいたい」など、将来的なビジョンを伺います。
6. その他のお困りごと・ご希望・運用面の補足
今後の運用の際、御社自身でどこのコンテンツ(お知らせやブログなど)を更新していきたいかをお聞きします。ご自身で作業できるようにシステムを組むため、非常に重要な項目です。
サービスの本質に踏み込む質問
また、デザインを作る上では、御社のサービス自体を深掘りすることが不可欠です。そのため、以下のようなブランドの根幹に関わる部分も質問します。
- 理念やビジョン
- ブランドのコンセプト
- ブランドの価値、強み、特性
- ターゲットとなる顧客像
- 競合他社や、ベンチマーク(参考)にしているサービス
- (すでに決まっている場合)ブランドカラー、フォント、トーン&マナー
これらをベースにしながら、お客様の状況に合わせて内容をカスタマイズし、かなり深掘りをしてヒアリングを行っています。
仕組みそのものに踏み込んだ、あるリニューアルの事例
今日のテーマである「うるささ」について、少し具体的なエピソードをお話しします。
以前、あるクライアントからWebサイトのリニューアルをご依頼いただきました。当初のお悩みは「自社で作ったサイトの情報が、ユーザーにとって分かりづらいのではないか」というものでした。
しかし、掲載内容を細かく検証していくうちに、根本的な原因は「Webサイトの見せ方」以前に、「サービスのシステム(区分や名称)そのものが、初めての人にとって非常に分かりづらい構造になっていること」だと気づいたのです。
そこで私は、サイトのデザインを整えるだけでなく、サービスの名称や区分そのものを分かりやすく変更することを提案しました。
もし、クライアントに言われた通りの構成をそのまま綺麗にデザインしていたら、見た目が整うだけで、分かりづらさは解決しないままだったと思います。名称や区分の変更となれば、クライアント側は社内で検討・調整を重ね、社内資料を書き換え、既存の顧客にも通知しなければなりません。一時的に多くの手間や面倒をかけることになってしまいました。
しかし、リニューアル後に、実際のお客様から「とても分かりやすくなった」という声が届いたと聞き、結果的に踏み込んで提案して本当に良かったと感じています。
対面で人間が補足しながらシステムを説明するなら、多少複雑でもカバーできるかもしれません。しかし、Webサイトというオンラインの場では、分かりづらい仕組みはそれだけで一瞬で「離脱(ユーザーが去ってしまうこと)」の原因になります。「よく分からないから、もういいや」と思われてしまうのです。
今の時代、ネット上には似たようなサービスが無数に存在します。「どうしてもここでなければならない」という強烈な理由がない限り、ユーザーは不親切なサイトからは離れてしまいます。だからこそ、サイトを見ただけで「こういうサービスで、こういう仕組みなんだ」と直感的に理解でき、申し込みへのハードルを極限まで下げることがコンバージョンにおいて何より大切なのです。そのため、私はサービスの導線や仕組みのレベルまで、徹底的に細かく見るようにしています。
結論:デザイナーという「第三者の目」を活かすということ
結局、今日一番何が言いたかったのかというと、「クライアント自身だけでは、自社のサービスの何が分かりやすくて、何が分かりにくいのか、何が素晴らしくて、何が強みで、それをどう表現していくといいのか、などなど気づき得ないことがたくさんある」ということです。
これは私自身にも言えることです。自分のビジネスのことは、毎日見ているからこそ主観が入り混じり、お客様の視点からどう見えているのかが分からなくなってしまいます。自分のことを自分で客観視するのは、本当に難しいものです。
だからこそ、プロフェッショナルである第三者の視点が必要になります。デザイナーは、単に絵を描く人ではなく、「情報の整理」や「伝え方(見せ方)」に特化した専門家です。
デザイナーの目を通じて、ヒアリングによって社内の暗黙知をしっかり聞き出し、さらに深く掘り下げ、最終的に「デザイン」というアウトプットに変えて、クライアントの先のお客様へ正しく届けていく。それこそが、本来のデザイナーの仕事なのだと私は思っています。