先日、ヴォーグ(VOGUE)オンラインのコラムを見つけました。
情報収集というか、そもそもファッションが好きなので、世界で一番有名とも言えるこのファッション誌のオンライン記事をよくチェックしています。
そこで、パリ発のファッションブランド「パローム(Palome)」の特集を見つけました。まだ設立されて1、2年ほどの新しいブランドらしく、私はそれまで全然知らなかったのですが、記事を読んでいると「これからブレイクするのではないか」と言われている理由がよく分かりました。
▼ラグジュアリーファッションを“正直な価格”で届ける、パリ発パロームの生産戦略
https://www.vogue.co.jp/article/palome
プロセスをとことん明かすスタイル
一言で言うと、とにかく「透明性」がすごいのです。
質の良い洋服を正直な価格で売ることをモットーにしているのですが、面白いのがその生産背景。
工場の閑散期を利用して服を生産することでコストを下げ、生地も指定するのではなく、デッドストックのものを探したり、工場が元々持っているものを使用したりしているそう。
さらに驚いたのが、製品の価格内訳を公表している点。
例えば、70ポンドのカシミアセーターにかかる製造コストが55ポンド。そのうち材料費が18ポンド、製造費が15ポンド、倉庫・配送費が11ポンド、関税・手数料・税金が8ポンド、梱包費が2ポンド、といった内訳が一部公表されています。
今の為替レート(1ポンド=約210円)だと、日本円が安すぎることもあって約1万4千円ほどになりますが、それでもカシミアセーターとしては結構安いと思います。低価格帯のファッションブランドが出しているカシミアセーターと同じくらいの価格帯ではないでしょうか。
ただ、このブランド自体は、いわゆるファストファッションではなく、クオリティをとても大事にしているブランド。
その質を維持しながらこの値段を実現しているのが、本当にすごいところ。
デニムなどもイタリアンデニムを使っていたり、シルクのキャミソールが1万円ほどで売られていたりして、その価格設定は非常に魅力的だなと感じました。
個人的には、「とうとうファッション業界もここまで来たか」という思いがあります。ファッションはトレンドの移り変わりが激しいこともあり、業種的にプロセスの透明性を確保しづらい分野だと思っていたからです。
ラグジュアリーブランドを買わない時代に
最近の傾向として、ディオールやヴィトンといったラグジュアリーブランドを、一般の人が以前ほど買わなくなってきたなと感じています。私が20代の頃は、頑張ってディオールの財布やバッグを買うことが比較的一般的でしたし、ヴィトンの財布などもみんな普通に持っていました。ですが、今はそういった光景をあまり見かけません。一部の富裕層や、本当のブランド好きの方は別として、一般的には「高くなりすぎて買わなくなった」という印象です。
これはインフレや円安の影響以前に、ラグジュアリーブランド自体が価格を引き上げ、不特定多数の人にたくさん売るよりも、一部のリッチな顧客層に買ってもらえばいいという方針にシフトしていることが大きいです。
その代わりに今台頭してきているのが、質の良い中価格帯のブランドであり、その主流が「透明性の高いブランド」だと感じています。
この流れは2000年代初頭からじわじわと始まっていましたが、ここ10年ほどでそういったブランドが一段と増え、緩やかに加速している印象があります。
例えば、アメリカのバッグブランド「クヤナ(CUYANA)」や、カナダのジュエリーブランド「メジュリー(Mejuri)」、さらには化粧品やフード・食品業界でも、この価値観が根付いてじわじわと増えてきています。
少し前までは「革新的」として紹介されていたものが、日常に定着してきた感覚。
エイチ・アンド・エム(H&M)やザラ(ZARA)のような、安さそのものを売りにしている低価格ブランドであれば、そこまで透明性は問われないのかもしれません。しかし、ある程度の価格がするものであれば、これからはきちんと透明性を確保し、「信頼」を売りにしていかなければいけない世の中になってきたのだと感じます。
ラジカル・トランスペアレンシー(過激な透明性)
2000年代初頭から最近までは、ブランディングによってイメージを作り上げ、裏側はあまり見せない手法が主流でした。しかし現在のビジネス界では、「ラジカル・トランスペアレンシー(過激な透明性)」という言葉が注目されています。これは1990年代に提唱された言葉だそうですが、今の消費者は「隠されていること」に対して違和感やリスクを覚えるようになっています。
「過激な透明性」と言うと少し大げさに聞こえますし、普通に誠実にやっていればそこまでしなくてもいいのでは、と思う部分もありますが、裏を返せばそれだけ「イメージだけではもうモノが買われない時代」になっているということ。
今の消費者がとても大事にしているのは、そのビジネスが「自分たちに対して誠実で、適切かどうか」という点。
企業が公表している情報をもとにそれを判断し、信頼できると感じたら購入する、という流れになっています。
イメージブランディングで誤魔化すような「魔法の時代」は本当に終わりを迎えつつあり、あらゆる業界で「裏表のない誠実さ」こそが最大の価値になる時代が来ています。
これは大きな企業に限った話ではなく、私たち個人の発信や小さなお仕事でも全く同じことが言えます。良く見せようと背伸びをするよりも、「私はこういうプロセスで、こういう思いで作っています」という素顔を見せることこそが、一番の信頼の貯め方になるのではないでしょうか。
「どう見せるか」よりも「どうあるか」が大事に
特に最近は、AIの進化がこの流れを加速度的に後押ししていると感じます。AIによって作られた(作り込まれた)外側だけのものは、だんだん信頼されなくなってきています。
うまく見せることや、綺麗に取り繕うことは見抜かれてしまう時代だからこそ、「本物」が求められており、「どう見せるか」よりも「どうあるか」が大事になっています。それを正直に見せていくこと自体が、新しいブランディングであり、ユニークな差別化に繋がるのだと思います。
コストやプロセスを明かすことは、周りからどう思われるか分からない不安や、「本当はその値段じゃないだろう」と突っ込まれるリスクを感じて、敬遠する人も多いかもしれません。ですが、本当にそれだけのコストがかかっているのであれば、正直に見せてしまって何の問題もないはずです。
それに、嘘をついたり隠し続けたりする方が、大抵は面倒なもの。だったら、最初から誠実にやっていくのが一番良いのではないかと思います。
パロームの紹介記事を見ていると、「包み隠さず見せるのはすごい勇気だ」「プライドを持って仕事をしている証拠だ」といった書かれ方をしています。ただ、私の個人的な推測ですが、こういった事業をしている方々は、単純に、「これまでの業界の古い慣習や、裏でこそこそやる取引が嫌になっちゃった」のではないでしょうか。「普通にオープンにやればいいじゃん」というシンプルな気持ちで始めているような気がします。
実は私自身もその感覚に近くて、自分に特別な自信があるわけではないけれど、隠してもしょうがないなという気持ちで、色々とオープンに活動しています。
Web業界でも、まだ色々と内訳を隠しているところが多いなと感じます。お客様に対して価格の内訳を細かく説明するのが難しい面もあるとはいえ、「この内容だから、このお値段なんです」とブラックボックスのまま大きなお金をいただくようなやり方は、もうやめた方がいいのではないかと思います。
やはり費用対効果はものすごく大事ですし、お客様が詳しくないからといって不透明な価格設定をするのではなく、正直にやっていくべきです。
Web業界も、もっとそうなっていかなくちゃいけないなと思っています。