皆さん、「タッチポイント」という言葉を聞いたことはあるでしょうか。 これはマーケティング用語の一つですが、一言で言うと、「顧客がそのお店やブランド、商品に触れるすべての瞬間」のことを指します。
今回は、特に「オンラインでのタッチポイント」をメインに考えていきたいと思います。
コロナ禍以降、オンラインビジネスに参戦する人が非常に増え、今やネット発信は当たり前の手法となりました。しかしその反面、顧客の視点に立つと、現在はあまりにも情報が多すぎる状態です。「何をどこでどう買えばいいのか」「どの情報をピックアップすればいいのか」が分からなくなるほど、私たちは日々、情報の洪水の中で生きています。
ビジネスをされている方は、ウェブサイトはもちろん、SNS、YouTube、ポッドキャストなどを活用されていると思います。しかし、せっかく潜在顧客の目に触れる機会があっても、その接触は基本的には一瞬であり、数秒間であることがほとんどです。
数秒の接点を増やす「打席数」の意識
では、このような状況でどのようにアプローチしていけばいいのでしょうか。まず重要になるのが、「タッチポイントを増やしていく」という考え方です。
InstagramなどのSNSを毎日できるだけ投稿することは大変ですが、これは「数秒の接点」を増やしていくために必要な、当たり前の取り組みと言えます。いわば「出す打席を増やす」という感覚です。
現代において、1回見てもらうだけではほとんど意味がありません。人々は毎日、何十、何百という新しい情報や広告に触れているため、1回見ただけでは「何かあるな」と思ってもすぐに忘れてしまうからです。
そのため、媒体を超えてアプローチしていくことが大切になります。今や、Instagramだけを使っているという人は少ないでしょう。InstagramとX、あるいはInstagramとnote、YouTube、ポッドキャストなど、複数の媒体を日々超えて閲覧している人が多いはずです。 Instagramで見かけたものがYouTubeやnoteにも少し出てくるというように、媒体をまたいで何度も出会うように設計し、顧客に「よく目にするな」と思ってもらうことが最初のステップとして重要になります。
ウェブサイトでの滞在時間を延ばす工夫
次なるステップとして重要になるのが、「ウェブサイトでの滞在期間(時間)を延ばす」ことです。
SNSの数秒のバラマキから、ウェブサイトへと誘導します。SNSで何度か目に触れるうちに「少し気になるな」と思ってもらい、ウェブサイトのリンクからアクセスしてもらう流れです。このウェブサイトのフェーズでは、どれだけ長く留まってもらえるかが勝負になります。
最初から文章をしっかり読み込む人はいないと思います。ウェブサイトを訪れた際、デザインが魅力的に感じられたり、少し気になる要素があったりすることが大切です。それはコピー(文章)でも良いですし、画像、動画、イラストなどでも構いません。「気になる雰囲気」を感じてもらうことで、「もう少しちゃんと見てみようかな」という気持ちが生まれます。 一瞬だけ見てすぐに帰られてしまうのはもったいないため、長く留まってもらえるような工夫が必要です。
ちなみに、YouTubeやポッドキャストという媒体は、その場所自体が最初のタッチポイントになりますし、気になって聴いたり見たりしてもらえれば、滞在時間も比較的長くなります。ブランドをより深く知ってもらうこともできるので、活用すべき媒体だと言えます。
関係を途切れさせない「継続の仕組み」
ウェブサイトに来てもらった後、そのまま顧客が帰ってしまい、やがて忘れ去られてしまうのは非常に大きな機会損失です。 そのため、サイトを少し読み込んでもらった後に、無料のニュースレター登録やLINEの友達登録などを案内し、申し込んでもらう設計が極めて重要になります。これにより、こちら側から顧客へアプローチ(リーチ)することが可能になります。
この設計を行うことで、一過性のアクセスで終わらせず、さらに継続した関係性を始めることができます。ただ単にウェブサイトに1回訪れて終わり、という状態にしないことがとても大切です。
そして、この一連のステップの最後に、ようやく「自社サービスの購入」という機会がやってきます。
顧客によって購入のタイミングは様々です。もちろん、ニュースレター登録などのステップを踏む前に、「たまたま今すぐに欲しい商品だった」という場合は、そのままウェブサイト上から購入申し込みにつながることもあります。
しかし、そうではない場合も多いものです。例えば、「今すぐには必要ないけれど、将来的には欲しくなるだろう」と思うようなケースは多々あります。 そのような状況にある顧客が、たまたま目に入ったInstagramをきっかけにウェブサイトを訪れてくれたとしても、一度そのまま離脱してしまうと、後からリンクをたどれなくなったり、存在自体を忘れてしまったりします。だからこそ、継続して関係性を結べる仕組みを持っておく必要があるのです。
継続的な関係性を持つことができていれば、顧客が実際に商品やサービスを購入しようと思ったタイミングで、他社よりも圧倒的に選ばれやすくなります。すでに身近な存在になっているため、全く知らない会社にいきなり申し込むよりも、「良いな」と思ってストックしていた会社で購入する確率の方が、圧倒的に高くなると考えられます。
タッチポイントを増やして何度も目にしてもらうことで、顧客との距離を縮めていく。ウェブサイトなどをきっかけとしながら、様々な自社コンテンツを通じて顧客の「日常の一部」にさせてもらうこと。簡単に言うと、タッチポイントの狙いはこのような一連の流れにあります。
このすべての段階を踏み、親密感を持ってもらい、信頼され、ファンになってもらうためには、ただ単に接触機会(タッチポイント)を増やすだけでは足りません。さらに重要になるのが、「すべてのタッチポイントにおいて、クリエイティブや世界観が統一されていること」です。
具体例で考えるタッチポイントのグラデーション
言葉だけでは少し分かりづらいかもしれませんので、具体的な例を挙げて説明します。今回は「ウォーターアクティビティ(カヤック)関連のサービス」を例に、顧客が体験するタッチポイントの流れを追ってみましょう。
1. 知る瞬間(出会い)
通勤中にスマートフォンでInstagramを見ていたところ、たまたま流れてきた美しい景色の中で、カヤックを楽しんでいる人々の投稿を見つけます。その時は「何か最近よく見かけるな」「カヤックはずっとやってみたかったし、気になるな」という感覚が心に残ります。
2. 検索とブログの閲覧(深掘り)
仕事が終わり、家に帰ってから何気なくネット検索をしてみたところ、あるウォーターアクティビティ会社のブログ記事を見つけます。
すると、それが朝にInstagramで見た投稿者と同じ会社であることに気づきます。
なぜ分かったかというと、デザインや世界観が統一されていたため、「あ、これはInstagramで見た気がする」と繋がったのです。
ブログ記事はいきなり文字を読むハードルが高いものですが、もともと気になっていた存在であるため、「読んでみようかな」という気持ちになります。
3. ウェブサイト(ホームページ)への訪問
ブログ記事をいくつか読み進めてみると、雰囲気も良く内容も面白かったため、記事内に貼られていたリンクから公式ウェブサイト(ホームページ)にアクセスします。
サイトを訪れると、ビジュアルが美しく、サービス内容やプロフィールも非常に分かりやすかったため、さっと全体に目を通します。この段階で「なかなか良い会社だな」という好印象を持ちます。
4. ポッドキャストやYouTubeによる音声・動画の体験(親密感)
そのウェブサイトでポッドキャストやYouTubeのリンクを見つけ、実際の動画を見たり、スタッフが話している声を耳にしたりします。
「次の日の通勤中にも聴いてみよう」となり、翌日の移動中に音声で聴くことで、「やっぱりこの会社は良いな」という思いが強まります。
5. タイミングの検討とニュースレター登録
仮に、この会社を見つけた時期が4月や5月だったとしましょう。そうなると、シーズンとしては「まだ行くには少し早いかな」と感じます。
ゴールデンウィークの予定はすでに決まっているため、次の夏休みの選択肢の一つになるかもしれない、と考えます。
しかし、日々の忙しさの中でカヤックをやりたかったこと自体を忘れてしまう可能性があるため、「とりあえず覚えておきたい」という心理から、無料のニュースレターにメールアドレスを登録するという行動を起こします。
6. 継続的な関係の維持(ニュースレターの受信)
登録後は、毎週ニュースレターが届くようになります。最近の川の情報や天気、現在現地でどのような取り組みを行っているか、またイベントやキャンペーンの案内などが届くため、「タイミングが合えば、このイベントに申し込もうかな」といった妄想を膨らませるようになります。
7. 問い合わせによる安心感の構築
ニュースレターを読む流れの中で、少し気になる疑問が出てきます。例えば「カヤックは子供は何歳から参加できるのだろう」といった疑問です。
サイトに「4歳〜5歳から」と書かれていても、ギリギリ3歳10ヶ月の場合はどうなのか、本当に年齢で厳密に切られるのか、あるいは身長が基準に達していれば良いのか、といった点が気になり、スタッフへ直接問い合わせをしてみます。すると、
非常に丁寧な返信が届き、「お父さんと一緒に乗れば大丈夫ですよ」といった感じの良い対応をしてもらえたことで、「この会社なら安心だ」という確信に変わります。(こちらは例として出しただけで実際の対象年齢は分かりません。ご自身でお調べください。)
6. 購入(夏休みの申し込み)
そして6月頃になり、実際に夏休みの計画を立てる段階を迎えます。
もう疑問点もなくなり、日程もクリアになったため、「あの会社に申し込もう」と決断し、正式にサービスを購入(予約)します。
7. 購入後のフォロー(期待感の高まり)
申し込み後も、サービス案内メールが何度か届きます。当日の準備についてのアドバイスや、オプションの案内、周辺の観光情報などを教えてくれるため、当日へのわくわく感が高まり、「行くのがとても楽しみだ」という状態で当日を迎えることになります。
概ねこのような流れを経て、最初のタッチポイントからファンへと繋がっていき、徐々に距離が縮まって、頻繁な交流や接触の機会が増えていくことになります。
まとめ:顧客視点で「おもてなし」を考える
この取り組みには、絶対にこれが正しいという「正解」はありません。「どういう手法をとればいいか」というノウハウよりも、「顧客にとって、どのような形で関わってもらえたら嬉しいか」を相手の視点に立って考えることこそが、最大のポイントになります。そしてこの部分こそが、ビジネスにおけるクリエイティビティが最も発揮される領域ではないでしょうか。
例えば、私自身の実務(クライアントワーク)の話になりますが、現在あるお客様のマーケティングツールとして「アプリ」を制作しています。ゲームや占いを楽しめるようなコンテンツなのですが、こうした仕組みを作ることも、単純にInstagramなどを訪れた潜在顧客に対して「そのブランドの世界観を味わってもらい、滞在する機会を増やす」というタッチポイントの創出に繋がっています。
滞在が増えれば、より親密感を感じてもらいやすくなるため、私自身も日々様々なコンテンツやツールを企画しています。皆さんも、ぜひ楽しみながら色々なタッチポイントの形を考えてみていただければ幸いです。